コラム
考えることをやめない――「できない」は出発点にすぎない
「どうせわからないから」と、考えることを最初から諦めてしまった経験はないでしょうか。
数学の難問に限らず、仕事の難題や人間関係の悩みでも、答えが出なければ「考えた時間が無駄だった」と感じてしまいがちです。しかし、それは大きな誤解かもしれません。
芳沢光雄著『数学的思考法』(講談社現代新書、2005年)の中で、著者はこんな考え方を紹介しています。「できなくても、考えておくことが大切だ」と。
問題をその場で解けなくてもいい。大切なのは、「自分なりに考えた」という事実そのものです。一度でも真剣に向き合った問題は、脳の中に「未解決のタスク」として残り続けます。その後、まったく別の場面で得た情報や経験が、その問いと結びついて突然ひらめきをもたらすことがある――これが、試行錯誤の本質です。
思い返してみると、アイデアが「お風呂の中で浮かんだ」「散歩中に急に思いついた」という経験は誰にでもあるはずです。あれは偶然ではありません。それ以前に問題と真剣に向き合い、頭の中で何度も考え続けていたからこそ生まれた瞬間です。「考えた」という土台がなければ、ひらめきはやってきません。
逆に言えば、今日答えが出なくても、考えた時間は必ず蓄積されています。すぐに「正解」を求めてしまう現代だからこそ、立ち止まって問いと向き合う時間を意識的に持つことが、思考力を育てる第一歩になるのではないでしょうか。
「わからなかった」は失敗ではなく、思考の種を蒔いた瞬間です。答えを急がず、まず考え続けることを習慣にしてみませんか。
参考文献
芳沢光雄『数学的思考法 ―説明力を鍛えるヒント―』講談社現代新書、2005年




